妊娠中に気を付けたい感染症の一つに、トキソプラズマ症があります。妊娠中の女性のトキソプラズマ症への初感染はお腹の赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症を引き起こす可能性があります。
以下では、トキソプラズマ症について、感染経路や症状、赤ちゃんへの影響、感染予防策などを解説していきます。
トキソプラズマとは
トキソプラズマとは、長さ5㎛~7㎛・幅が3㎛の三日月~半円形をした原虫です。
これによって引き起こされるトキソプラズマ症と先天性トキソプラズマ症について説明します。
トキソプラズマ症について
トキソプラズマ症とは、トキソプラズマ原虫によって引き起こされる感染症で、トキソプラズマに感染している猫の糞や生肉、土や砂から人へも感染します。
感染率は国や地域によって大きな差があり、世界的に見ると人口の約1/3が感染していると考えられていますが、日本だけでみた場合、トキソプラズマ抗体陽性率は7~10%と低く、食習慣や衛生状態が大きく関係していると考えられます。
トキソプラズマ症に感染した場合でも、何も症状がないことがほとんどですが、まれに発熱やリンパ腺の腫れなど、風邪のような軽い症状が出ることもあります。
赤ちゃんへの影響について(先天性トキソプラズマ症)
先天性トキソプラズマ症とは、妊娠中の女性が初めてトキソプラズマ症に感染した場合に、引き起こす可能性のある赤ちゃんの先天性感染症です。
感染時期 | 妊娠初期 | 妊娠後期 |
胎児への感染率 | 6% | 60~70% |
重症化率 | 60~70% | 10% |
上の数字からもわかるように、先天性トキソプラズマ症には、以下の特徴があります。
- 妊娠後期の感染ほどお腹の赤ちゃんへの感染率が高い
- 妊娠初期の感染ほど重症化しやすい
そのため、妊娠初期・中期・後期に関わらず、気を付けるべき感染症と言えます。
妊娠中の女性の初感染率は0.13%と低いですが、妊娠中に初感染した女性の30~40%の割合で先天性トキソプラズマ症の赤ちゃんが生まれています。
お腹の赤ちゃんが先天性トキソプラズマ症に感染すると、死産や流産、水頭症、脈絡膜炎による視力障害、脳内石灰化、精神運動機能障害などを引き起こす恐れがあります。
また、生まれた時には症状がない場合でも、その後の成長過程で発症するケースもあります。
トキソプラズマの感染経路
トキソプラズマ症の主な感染源としては、以下の3つが挙げられます。
- 生肉
- 猫の糞
- 土・砂
生肉
トキソプラズマに感染している肉を生のまま食べたり、十分に加熱しない状態で食べたりすることで、感染するリスクがあります。
妊娠中は必ず火の通った肉を食べましょう。レアステーキやユッケ、生ハム、サラミなども危険性が高いため、避けたほうが良いでしょう。
また、肉を調理する際に使用した包丁やまな板などの調理器具も感染源となります。使用後はすぐに洗浄しましょう。

猫の糞
トキソプラズマに感染している猫の糞に触れることで、感染する可能性があります。
特に、猫の糞を素手で触ったり、トイレ掃除をしたりすることは感染リスクが高くなります。飼い猫の排泄物の掃除は、妊婦さんはできるだけ避けたほうが良いですが、もし行う場合は手袋を着用し、十分に手を洗いましょう。
また、飼い猫よりも野良猫はトキソプラズマに感染している可能性が高く、野良猫と接触することで感染する可能性もあります。
土・砂
土や砂には、トキソプラズマに感染した猫の糞などが紛れている可能性があり、素手でのガーデニングや砂場遊びにもリスクがあります。
ガーデニングや土いじり、砂場遊びの際には、土や砂を素手で触らずに手袋を着用することで防ぐことができます。
また、野菜や果物に付いている土にも感染のリスクがあります。皮ごと食べる野菜や果物はよく洗って土や砂を落としてから食べましょう。


トキソプラズマ抗体検査
トキソプラズマ抗体検査で、トキソプラズマの抗体の有無を調べることができます。
通常の妊婦検診の検査には含まれていないことが多いですが、希望する場合は1,000円~2,000円程度で実施できる場合がほとんどです。検査を希望する方や感染が心配な方は、検診先の先生に相談してみると良いでしょう。
陰性の場合
抗体検査の結果が陰性の場合は、これまでにトキソプラズマに感染したことがないことを表しています。妊娠期間に感染しないよう、引き続き十分に注意して過ごしましょう。
陽性の場合
抗体検査の結果が陽性の場合は、詳しい検査を実施し、感染時期の推定やお腹の赤ちゃんへの感染の有無を調べましょう。医師が必要だと判断した場合には治療を進めます。
感染しないために気を付けること
トキソプラズマへの感染予防策として、以下のことに注意しましょう。
- 生肉(レアステーキ、ユッケ、生ハム、サラミなども)を食べない
- 肉は十分に加熱して食べる
- 野菜や果物は十分に洗ってから食べる
- 飼い猫のトイレ掃除には手袋やマスクを着用し、終わった後は石鹸でしっかりと手を洗う
- 野良猫と接触しない
- 土いじりやガーデニングの際には手袋を着用する
- 妊娠準備中に抗体検査を受けておく
- 妊娠準備中や妊娠超初期から予防を徹底する
これらのことに十分に気を付けて、トキソプラズマへの感染を防ぎましょう。
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